うつの時代 3
大学時代に同じゼミだった女性と久しぶりに会うことになった。お互いに時々思い出したように電話やメールをしたり、数年に一度のペースで会ったりするくらいの関係なのだが、会えばいつまでも話が弾むので、この先もずっと友達でいれたらいいなあ、と思える数少ない友人の一人だ。
彼女は大学を卒業したのち、とある信託銀行でずっと働いていた。だけど自分の仕事に疑問を持ち続けていたのだ。彼女にとって銀行の仕事は、大抵の友人たちと同じように、就職活動というどさくさの中で、それが自分にとって本当にやりたいこととか関係なしに消去法的に決まった職業だった(と彼女自身が言っていた)。
だから彼女はこれまでも、会うたびに仕事を辞めたいと言い続けていた。前回に会った時には、ある程度貯金が貯まったらカフェを開きたいと言っていた。そのための学校に通っている、と。
ぼくは学生時代から彼女のセンスを買っていたので、それはとてもいいアイデアだと思った。そしてつい先日会った時に彼女は、「転職をしたよ」と唐突にぼくに告げた。新しい職業はリフレクソロジー。
そう、今流行りの「足裏マッサージ」だ。初めてそのことを聞いた時、ぼくはちょっと意外な感じがした。なぜなら学生時代からそういったニューエイジ的なことに興味を持っていたぼくと違って彼女は、極めて現実的な趣味を持っていたからだ。
菜食主義や無添加食品、瞑想、気功、そういったことに長い間たずさわってきたぼくとは一線を画していた彼女が、リフレクソロジーなどというイギリス経由の東洋医学を生業とし始めたのだから、びっくりするのも訳はないと思う。
リフレクソロジーなどの補完・代替医療(Complymentary and Medicine)が今、世界的に注目され始めている。頭文字をとってCAMと呼ばれる補完・代替医療は、一般的に西洋医学以外を指す。
カイロプラクティック、漢方薬、鍼灸、アーユルヴェーダ、心理療法、イメージ療法、気功、太極拳、ハーブ、食事(栄養)療法、アロマテラピーなどに代表される伝統・伝承療法が有名なところかもしれない。
WHO(世界保健機構)によると医学的論拠が認められるCAMは、世界におよそ100以上あると言われる。米国立衛生研究所(NIH)は1998年に、単なる一部門に過ぎなかった代替医療局を、独立した連邦機関に格上げし、「国立補完・代替医療センター(NCCAM)」を設立した。
『News Week』誌(2003年1月15日号)によれば、かつては年間2000万ドルだったこの代替医療局の予算が、NCCAMとなった今では1億ドル以上にふくれあがっている。現在アメリカの医学大学院のうち少なくとも3分の2は、代替医療の授業を設けている。少なくとも多くの医師が従来の治療法だけでなく、リラクゼーションや瞑想を組み合わせて、病状やQOL(生活の質)を向上させているのは確かだ。
人がCAMに興味を抱くのは、その効果のみならず、患者をケアする姿勢そのものであると言われる。西洋医学は患者に対し、自分が機械のように扱われていると思わせているのだ。CAMには西洋医学が忘れてしまっているものが存在する。
古来から病気を治すのに、まず患部に手をかざしたり、当てたりしたように、人の愛が治療には最も大切なことである。そもそも医療を意味するMedicineという言葉と、瞑想を意味するMeditationは同じ語源から派生している。共に呼吸などを通して自分の内面に深く入ることで、自然治癒をすることだ。CAMにはそれがあるのだ。
もちろんCAMのすべてが効果的かどうかは疑問も多い。現在わかっている所では、効果的で安全なものとしては、カイロプラクティック(急性の腰痛)、鍼療法(化学療法による吐き気、歯痛)、心身医学的治療法(慢性の痛み、不眠)などがある。同じく効果的ではあるが、今のところ安全性は不明なものとして、セントジョンズワート(うつ)、ノコギリヤシ(前立腺肥大)、硫酸コンドロイチン(変形性関節症)、イチョウ葉エキス(痴呆症における認知機能の低下)などがあげられる。
とくにうつの場合は、CAMなどのオルタナティヴな治療法の中でも、セントジョンズワート(西洋弟切草)を服用するのが一般的になっている。この植物に含まれるある種の成分が、セロトニンやノルアドレナリン、ドーパミンなど、大脳で気分調整を司る神経伝達物質に作用すると言われている。これは医師の処方なしで服用でき、一部の医薬品と一緒に服用しない限り副作用がほとんどない抗うつ薬である。
またサミー(S-アデノシルメチオニン)というサプリメントも、うつの症状を抑える効果があると言われている。サプリメントだけでなく食事療法では、大豆に含まれるゲニスティンという物質が、ドーパミンなどの神経伝達物質の働きを高めることがわかっている。
その他にはセロトニンを作るために必須なトリプトファンというアミノ酸を多く含む食品(牛乳、バナナ、チェダーチーズ、卵黄、落花生など)の摂取もうつには効果的である。
またヨガも、うつを和らげる効果があるとされている。ヨガだけでなく瞑想にも言えることであるが、深くゆっくりとした呼吸(必ず鼻から息を吸い込み、口から吐き出すこと)を15分以上続けることは、体内の細胞を活性化し、血流や神経伝達物質に著しい効果をあらわす。
同じように、自分で出来るエクササイズ(ウォーキング、ジョギング、自転車こぎなど)もうつの症状を和らげるのに、かなり有効である。
Category : 病気 |
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